悲しい出産~医療現場の現状
こんにちは。
出産には喜び・幸せが満ち溢れていて、そして妊娠すれば元気な赤ちゃんが必ず生まれてくるはず・・・一般的にはそう思っている方が少なくないと思います。
しかし残念ですが、現実にはそうとも限らないケースもあります。
私はかつて産婦人科病棟で数々の分娩に立ち会いましたが、その中でも特に忘れることができない、悲しい出産の一例をお伝えしたいと思います。
IUFD(子宮内胎児死亡)
30代、妊娠36週、初産の妊婦さんのケースです。
前日の妊婦検診では問題なく帰宅されたのですが、翌朝になり胎動がいつもより少ないと感じて心配になったため、病院に電話を入れました。
その日は休日だったため、当番医師に指示を仰いだ結果、心音とNSTのモニターを確認するため妊婦さんに病棟へ来てもらいました。
早速ドップラーで胎児の心音を確認しようとするが、なかなか心音がとれず、念のため他のスタッフにも同じように確認してもらいましたが、やはり聞こえず・・・。
急いで当番医師に報告しました。
ほどなく医師が到着し、エコーで確認した結果・・・
「残念ながら赤ちゃんの心臓が止まっています」
すでに赤ちゃんはお母さんの子宮の中で息を引き取っていたのです。
そう告げられた妊婦さんと、その家族はショックのあまり取り乱し、泣き叫んでいました。
昨日まで元気に胎動を感じ、あと数週間で我が子に会えるはずが・・・。
その光景を見て、私たちスタッフも皆、胸が押しつぶされる思いでした。
声なき出産
亡くなった赤ちゃんをいつまでもお腹の中に入れておくことは母体にも危険を及ぼすため、陣痛を誘発して早期に分娩したほうがいい、お母さんは医師からそのように説明を受けました。
翌日、陣痛誘発剤の投与が始まりました。
陣痛がはじまり、子宮が全開大になるまでの時間はそれほど長くはありませんでした。
本来の陣痛であれば、その痛みさえも嬉しく思うでしょう。
陣痛を乗り越えた後には、元気な鳴き声をげる赤ちゃんに会えるのですから。
しかし、このお母さんにとってはそうではありません。
陣痛の痛みに加え、亡くなった赤ちゃんを産まなければならない悲しみも加わるのです。
分娩室には、お母さんの泣き声が響きわたっていました。
死産後のケア
やがて赤ちゃんは生まれました。泣き声を発することなく。。。。
胎児の処置をしたあと、お母さんや家族と対面を果たすことになります。
少しの間だけですが、いっしょに時間を過ごすことが出来ました。
「生まれてきてありがとう」
「ごめんね、命を守ってあげられなくて」
「どうして、この子に限って、こんな目に・・・」
病室からお母さんやご家族の声が聞こえます。
悲しみ、やり場のない怒り、さまざまな感情が病室の外にいる私たちにも痛いほど伝わってきます。
ご家族のお気持ちが落ち着くのを待って、分娩後のケアを開始させていただくことになりました。
まず、亡くなった赤ちゃんの足型を取りました。
次に、出産準備として用意されていたはずのベビー服やおむつ、おくるみを家族と共に赤ちゃんに着せます。
そして赤ちゃんを棺に入れ、その中には玩具とエコー写真を添えます。
ご家族にへその緒も渡し、帰宅の準備を進めました。
「ありがとうございました」
ご家族はみな丁寧にお礼の言葉を言って、帰宅されていきました。
このブログをお読みで、特に若いナースの方々には信じられないかもしれませんが、つい十数年前までは流産・死産だった子は生まれると膿盆に入れられ、冷蔵庫で冷やすのが一般的でした。
まるで「モノ」のような扱いです。
これではいけないという現場からの声があちこちから挙がり、死産のケアの重要性が説かれるようになって、試行錯誤の結果、このような手厚いケアが施されるようになりました。
まとめ
日本では、年間約3万件の死産がおきていると言われています。
昨年の交通事故の死者が5000人台だったことを考えれば、あまりに多い驚くべき数字です。
また、死産のケースの大半が、あらかじめ予測ができないまま突発的に起きるといわれています。
そのような場面に遭遇した妊婦さんとその家族の悲しみはいかばかりでしょうか。
死産のケアの重要性がより広く認知されることを願わずにはいられません。
この記事を書いた人
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産婦人科病棟/内科整形外科の急性期病棟勤務
現在は2児のママで育休中。
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