高齢者施設の事件簿2まさかの低温火傷
今から数年前、高齢者施設に勤めて間もない頃に体験した入居者の離設により起こったまさかの低温火傷の事故です。
離設した入居者発見
真冬のとっても寒い朝7時ちかくの出来事でした。
介護職員がモーニングケアで他の入居者の個室へ行って人目がない間にリビングで朝食を食べ終わった入居者Aさんは、一人で外に出て行ってしまったのです。
探したところ、施設の敷地でうつぶせに倒れている所を発見しました。
意識低下はなく、外傷もなく普段と変わりなく動くことができました。
この時の一番の問題は、寒い外にいたわけですから、全身が冷えきっていたことです。
体温は、35度台で、他のバイタルは問題ありませんでした。
宿直だった看護師は、体を温めて様子を見ることにしました。
しかし、当時の施設には、電気毛布がありませんでした。
そこで、介護職の方達は考えました。
ペットボトルにお湯を入れて湯たんぽ代わりにして、クーリングと同じく大きな動脈が通っている腋下や鼠径部にあてて温めることを思いつき実行しました。
私は、日勤で全体の申し送りが終わった後9時過ぎに入居者Aさんの状態を看に行きました。
体温は36.0度まで上がっていました。
さらに温かい飲み物を飲んで頂いて体の中からも温まるようにしました。
お昼近くになっても何となく普段と違い活気がなく私は心配になりました。
倒れていたということは、外傷はないものの頭を打っているかもしれないし・・・
Aさんは認知症を患っていることもありどこか調子が悪くてもうまく訴えることができないし・・・
そこで、提携病院の大学病院の救急外来に相談しました。
「温めて様子を見て下さい。何か変わったことがあったら受診してください」と医師から返答がありました。
その後2時間ぐらい様子をみましたが、やはり心配なので救急外来を受診しました。
受診した結果
軽い高ケトン血症と低温火傷と診断され入院となりました。
入院が決まり着替えようと服をめくったところ、両腋下に表皮~真皮が剥離となっている火傷ができているのを発見したのです。
救外の医師からは「ペットボトルにお湯を入れて温めるなんて乞食みたいなことしないで!電気毛布ぐらい買ったらどうなの!」とひどく叱られました。
乞食たちがペットボトルに湯を入れて湯たんぽ代わりにして低体温火傷を起こすというのはよくあることだそうです。
思いのほか火傷はひどく皮膚移植術までしなければいけませんでした。
入院は5日で済みましたが、低温火傷の治療のために外来受診を続けて完治するのに半年近くかかりました。
気温が上がると腋下は汗をかきやすいので厄介な場所です。
本人とご家族は、「家にいたときから自分で外に出てしまって、一番忙しい朝にすいません。」とおっしゃってくれましたが、施設は申し訳ない気持ちで頭が上がりません。
入院費は施設で全額支払い深くお詫びを致しました。
ありがたいことにAさんはその後も当施設を変わらずにご利用して下さっています。
タオルでくるんであてたのに・・・
入居者Aさんの肌は、白く薄いきれいなもち肌で他の人と比べると皮膚が弱い方でした。
自分のよだれで一晩にして頬がただれて表皮が剥けてしまうほどでした。
若く健康な私たちは大丈夫だったかもしれませんがAさんには適さなかったのです。
いいえ、Aさんに限らず高齢者の皮膚は弱いのでそんなことはしてはいけないということを学びました。
それに、体感温度が人それぞれ違いますし、感覚が麻痺している方、訴えることができない方には十分注意が必要です。
その後の対策
もちろん、その後すぐに電気毛布を施設で購入しました。
そして、この事故を施設職員全員に公表し注意喚起をしました。
しかし、その数年後、また同じことをしようとする職員がいたのです。
全身を温めて脱水状態になると大変だからと思い、電気あんかがないのでペットボトルにお湯を入れて代わりにしようとしたのです。
福祉現場は人手不足は深刻で入れ替わりが激しく学歴や経験、持っている知識は人それぞれで差があります。
そこで、毎年、同じ間違いを絶対に繰り返さないように全職員に注意喚起をしています。
皆さん、くれぐれも、このようなことをしないように注意しましょう。
この記事を書いた人
- 十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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