看護学生の素朴な疑問「どうせ忘れるんだから関わるのが虚しい」にどう答える?
現在、特養に勤め看護学生の老年実習を引き受けています。
大抵は、看護学生に今話題の認知症を現病歴としている方の受け持ちをさせています。
そして、学生達は次のように口々にします。
「自己紹介をしても数分後には忘れていて次の日も「はじめまして」から挨拶しなくてはいけなくて信頼関係を築いてケアができるのかな」「すぐ忘れられてしまうのだから一生懸命に関わっても虚しい」と
皆さんならばどのように答えますか?
看護学生の戸惑い
施設での老年実習は、2週間となっていますが、休みや院内学習を入れると実質的に1週間しかありません。
1週間という短期間なうちにアセスメントをして問題点を見つけ、看護ケアを実践した結果と考察をまとめて、実習最終日には発表しなければいけないのです。
病院実習しかしたことのない学生は、いったい何が問題点なのか何をしていけばいいのか戸惑います。
施設では、疾患を治癒するためという目的ではなく、生活をする場です。
生活を維持するために、リハビリをして筋力の維持や増進をしようと思いつくのですが、認知症を患っているがゆえにリハビリの必要性が理解できず工夫しなければしてもらえません。
それに加え、毎日が初対面の人だから信頼関係もなくしてもらえないのかとも感じるようです。
しかも、学生がいる間は一緒にできるけれど自分が実習が終わったあと続けられなければ意味がないのではないかという虚無感に襲われます。
施設職員は何が楽しくて日々認知症の方のケアをしているのか
学生ならではの率直な質問です。
ケアしてもすぐに忘れられ、状態が改善することがなく死に近くなるにつれ全体の機能が低下していくのに虚しくないのかと聞かれます。
実はこの気持ち大切にして欲しいと私は思います。
家族は少なからずこのような感情を抱きます。
私自身祖母の自宅介護をした時は、そのような感情でいっぱいになりました。
看護師という職業につくと、病気なんだから仕方がないとご家族の感情をしっかり受け入れず軽く聞き流してしまうことがあるからです。
だから、その虚無感を感じたことは悪いことではなく素直に受け止めて聞くことができる学生は一つ成長できるステップを踏んでいるのです。
感情は忘れない
認知症を患った方は、その行為やできごと自体は忘れてしまうことが多いのですがその感情については忘れません。
認知症専門医曰く、認知症になると左脳よりも右脳が優先に働くためか、感情については敏感です。
確かに、特に嫌な思いをしたことについては忘れません。
そして、こちらが少しでも強引に「よーし!今日こそ絶対に風呂に入れてやる!」なんて思っているとすぐに見抜かれるものです。
強引にケアを勧めると、次からは、この人について詳しく覚えていないけれど何か嫌なことをされた気がすると拒否されます。
ケアする側が身構えず関わると案外すんなりと受け入れてくれたという体験があります。
では、認知症によって毎日初対面の人にお世話される入居者の立場に立ってみましょう。
この人ならば世話をさせてもいいかな、任せてもいいかな、自分を受け入れてくれるかなという印象を与えることが大切になるのではないでしょうか。
認知症当事者の講演など最近は増えてきました。
認知症だからとレッテルを貼られて関わられるのが一番のショックだと言います。
脳の一部の機能が低下してしまったけれど、感情は衰えたり崩壊するのではありません。
感情をそのようにしているのは、レッテルを貼って関わる周囲の人の影響が大きいと思います。
出来事は忘れても、快適な感情を積み重ねていくことが、幸せで充実した人生へ繋がっていくと私は信じています。
実習の時だけだから虚しい
「実習生がいなくなれば、計画は実施されずもとの生活に戻るんでしょ?」
はい、すいません。人員不足の現実からして努力はするけれどすべてを実施できません。
しかし、入居者は、学生がこんなにも自分のことを一生懸命考え関わってくれたことが生き甲斐になっています。
短い間の実習ですが、潜在能力を学生が引き出してくれて職員はこんなことできたんだと驚くことが多々あります。
長い人生の中でとして捉えると、学生が一生懸命に関わってくれたという嬉しい感情を抱けたなら幸せだと思います。
高齢とかではなく人生いつ死が訪れるかわからないので覚えていようが忘れようが、、一時一時が幸せに過ごせたらいいのではないかと思います。
さいごに
実習に虚しさを感じている学生のお役に少しでもたてれば幸いです。
このようなことを深く考えられるのは学生のうちだけかもしれません。
実習は大変かもしれませんが、いっぱい悩んで考えることを楽しんでください。
現場で働いている私から見れば羨ましい限りです。
この記事を書いた人
- 十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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