施設で動物を飼ってみたら
私が勤めている特養では、入居者が飼っているペットとの同居生活OK、職員の飼っている動物同伴出勤OKとなっています。
しかも、初代施設長の人柄により捨て猫、捨て犬を施設でペットとして買っています。
特養で動物と一緒に暮した結果、様々な反応が見られましたので紹介します。
ペットが来た
東日本大震災後、当施設から施設長や職員が、ボランティアに出向いた時のことです。
ご主人様が震災で逝ってしまい路頭に迷っていた犬がいました。
犬好きな職員に懐き、お互い離れられなくなり連れてきたのです。
しかし、その職員はペット禁止のマンションに住んでいるため飼うことができず、施設の事務所で飼うことになりました。
名前は、ご主人様が付けた名前そのまま「ウメ」と呼んでいます。
最初は、震災のトラウマなのか「ガタン」など台車や車が揺れる音などに対しても怯えていましたが、数年経った今ではすっかり慣れたようです。
あまり愛想はないのですが、かまってあげたり餌をあげると愛想を振りまく現金な犬です。
そこで、事務所の中にいるよりも、施設の外に出してみんなと気軽に触れ合えるようにしようと、立派な犬小屋を作ってあげました。
しかし、ウメは一人に耐えられず、近所から苦情がくるような悲しげな遠吠えをあげるので、結局のところいつも人気のある事務所内に所属しています。
入居者の反応
犬好きの方は、ウメに会うためにと生活に張り合いがでたようです。
ウメをなでようとして、普段あまり動かさない手を動かしてくれる方もいます。
無口な方で人間には話しかけないけれど、ウメには一生懸命話しかけてくれます。
愛するペットの面会
数年前、入居者Aさんは、脳梗塞に倒れ食事を飲み込むことすらできず、ご家族が自然な看取りをご希望され施設に帰ってきました。
施設入居前から飼っていた犬がいて、以前から犬同伴で妻が施設に面会に来てくれていました。
夫婦ともにとてもその犬をかわいがっていました。
夫が脳梗塞で倒れたので病院にすぐに来て頂くようにお願いしたところ「犬がいるので、犬を一人にできないので行けません」と言われたぐらいです。
「夫と犬どっちが大事なんだ」と突っ込みを入れたくなります。
退院後は、もちろん愛犬を連れて面会に来てくれました。
麻痺が強く体位変換も自らできないほどのAさんが、愛犬を見たとたん上半身を半分ぐらい起こすことができたのです。
しかも、今までAさんから見たことものない大粒の涙をボロボロ流して喜んでいます。
病院では犬との面会は許されなかったので1か月ぶりに再会したということもあったようです。
愛犬の力は凄いなと、職員は感じました。
ペットが面会に来てくれることは、その飼い主Aさんだけでなく他の入居者や職員にも安らぎや喜びをもたらしてくれます。
愛犬と共に入居
家族の一員となっている愛犬と共に入居できることは、喜ばしいことです。
本人もご家族も大変喜んでいました。
愛犬の世話をするという責任感が生き甲斐に繋がり、生活も規則的になりやすいようです。
入居者の下肢の筋肉が衰えてくると、代わりに職員が犬の散歩をしなければいけないということもあるので、入居時はそのへんも考慮しなければいけません。
ボランティアの方と入居者と犬と一緒に散歩に行ってもらったこともありますが、ボランティアの人は施設周辺の土地勘がなく、入居者は認知症だったため、犬に導かれるまま散歩していたら道に迷い施設に帰れなくなったというエピソードがありました。
そんなこともありますので、携帯電話やお財布を持って散歩に出かけてもらいましょう。
看護師がペットを連れて勤務
ぬいぐるみのように小さくて可愛いチワワと一緒に入職した看護師がいました。
人間の赤ちゃんを抱っこするのと同じような犬用のスリングを使い、よく抱っこして仕事をしていました。
「可愛いね」と、入居者も顔もほころんでいました。
しかし、チワワではなくその看護師の常識のなさから問題が発生しました。
いくら静かな犬とはいえ、往診時やムンテラの場などにもどこにも犬を連れていきTPOをわきまえなかったため、医師や家族から苦情が出るようになりました。
しかも施設で飼っていたウメがじゃれてそのチワワに噛みついた時、施設の管理が悪いと施設に治療費を請求してきました。
チワワから目を離した自分の責任はどうなんでしょうか?
様々なトラブルが重なりその看護師は退職していきました。
まとめ
アニマルセラピーは、科学的な立証が難しいものの血圧の安定やリラックス感が増す、生き甲斐に繋がるなどデータとして証明されています。
施設でペットを飼うことは、きっとアニマルセラピーと同様に利点があります。
しかし、中には動物が嫌いな人、猫アレルギーの人もいるということも忘れずに今まで愛してきたペットと共に楽しく穏やかに暮らせる環境作りに励みたいものです。
この記事を書いた人
- 十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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