進行性核上性麻痺は多幸感を感じやすい難病!?
多幸感を感じやすいと言われている多発性核上性麻痺という難病を皆さんご存知でしょうか?
私は、「進行性核上性麻痺」という病気を初めて聞きました。
ある日、上記の病気によりほぼ寝たきりとなった50代前半の女性のBさんが、私が勤めている特養に入居してきました。
「進行性核上麻痺」とは
大脳基底核、脳幹、小脳といった部位の神経細胞が減少し、異常にリン酸化したタウが蓄積してきます。このような病変が起こる原因はわかっていません。
パーキンソン病と似た動作緩慢や歩行障害がみられ区別がつきにくく、パーキンソン病と誤診される場合があるようです。
有病率
人口10万人あたり10~20人程度。
40代以降、50~60代の発症が多く見られます。
症状
●歩行障害・動作障害
転びやすいということで最初に気づかれることが多い疾患です。Bさんもその一人でした。
4年前に、仕事に向かう途中に転倒し後頭部を強く打ち、救急車で運ばれて、この病気の診断がついたそうです。
その後も、姿勢が不安定になり、危ないという判断力も低下し転倒を何回も繰り返すようになりました。
そして、徐々に動作がゆっくりとなり手足の関節が拘縮し寝たきりとなったところで特養に入居しました。
●眼球運動障害
発症して2~3年後に出現します。
上下、特に下向きの随意的眼球運動が障害され下方を見ることが困難になります。この症状が転びやすさにもつながっているようです。
進行すると眼球が正中で固定し動かなくなってきます。
●構音障害・嚥下障害
声掛けすると、構音障害のため聞き取りにくいたどたどしい話し方です。短い単語ならば聞き取りは最期まで可能でした。
また、徐々に食事時にむせ込みが多くなり吸引が頻回に必要になりました。進行すると、むせ込み、吸引による咽頭反射もみられなくなりました。
ですので食物を飲み込んだと思っても静かにSPO2が低下しているというような感じです。
●認知症
比較的に軽い傾向を示すと言われています。
質問に対してすぐに言葉がです、答え始めるまでに時間がかかったりします。
入所当時、Bさんの年齢を間違って言ったところ、時間が経ってから「違います。私の年齢は〇歳です」と正しい年齢を答えたのにはびっくりしました。
話しかけても返答があまりにも遅いため、理解していないのかもと思ってはいけません。
また、病気に対しての深刻感が乏しく多幸的であるのも特徴的です。
50代、独身で大手有名会社のバリバリのキャリアーウーマンだったBさん、病気を悲観してもおかしくないのですが、そんな言葉を家族は一度も聞いたことがないそうです。
病院や老健を経由して特養に入所したのですが、どの写真も積極的しかも楽しそうにレクに参加しているものばかりで、色紙にもそのように書かれていました。
カラオケが趣味で、寝たきりになってもBさんの好きなアーチストの曲をかけると、リズムに合わせて手足を動かしたり、口ずさんでいました。
しかも、痰の吸引中も「んーんーんー♪」と歌のリズムを口ずさもうとするのです。
これは、まさしく多幸感なのかもしれないと思いました。
経過
発症してから4~5年で寝たきりとなるのですが、患者さんごとに経過は異なります。
根本的な治療はなく、4~5年で誤嚥性肺炎により多くの人は亡くなります。
Bさんは典型的な上記の経過をたどりました。
痰吸引を頻回にしなければいけなくなった時は、「苦しい!もうやめて!」というBさんの言葉が忘れられません。
中年で難病が発症する苦悩
Bさんの両親は健在で80代でした。Bさんの面会に来ると「特養の入居者は、みんな私と同い年なのに、私こそ特養に入る年なのに、なんで息子なのかしら」と嘆いていました。
食事が経口摂取困難になると、胃ろうを造設するかCVの点滴をして療養型病院に移るか、それとも寿命ととらえてこのまま特養で看取るか選択をしてもらわなければいけません。
Bさんが誤嚥性肺炎で入院し、ついにその選択をしなければいけない時がきました。
Bさんに聞いても答えてはくれず、ご両親に決めなければいけませんでした。
ご両親は、「難病で胃ろうにしても点滴をしても治るわけではなく、痰の吸引で苦しまなければいけないのはわかっているけれど、親よりも先に逝ってしまうなんて」という思いに駆られ、なかなか決められないでいました。
時には「何でこんな難病になってしまったのかしら、何がいけなかったのかしら」とも思い悩んでいました。
母親は、いつもBさんを小さな子供のような愛情のある眼差しを向け、頭や体を撫で、話しかける姿を見ると、どんなに親子共々、年を重ねようとも思いは変わらないのだと感じました。
子供を自分よりも先に失くすという悲しみを思うと切なくなりました。
悩み悩み抜いた末、「病院では好きな音楽が聞けないし歌を歌えないので、特養でできる限りのことでいいので最期まで過ごさせてあげたい。」と特養で看取る選択をしました。
特養で最期を迎える
特養では、点滴投与ができませんので、退院すると徐々に脱水状態になっていきます。
退院して3日間は、病院で投与した点滴による水分が残っているのか痰が多く、頻回に吸引していましたが、その後は、ほとんど吸引の必要がなくSPO2も良好に保たれ、Bさんの表情がとても穏やかになりました。
時に大好きな歌を口ずさむこともありました。
他の老人ホームに入っていたBさんの父親も生きているうちに面会することができ、Bさんは、声を発しなかったもののじっと親の顔を見つめていました。
お母様は、毎日面会に来て、昔のことを回想してはBさんとの思い出を語ってくれました。
「あの世では親孝行してもらうからね。ちゃんとお母さんの顔を覚えておくんだよ」とBさんが目を開けている時には話しかけていました。
退院して9日目に、Bさんの大好きな音楽に包まれて静かにあの世に旅立っていきました。
さいごに
特養で、このように若い方を受け入れ看取るのは珍しいことです。
Bさん、ご家族から様々なことを学ばせて頂き感謝の気持ちでいっぱいです。
疾患の基礎は、難病情報センターの資料からまとめさせていただきました。
難病情報センターを覗くと多くの難病が、この世にあることに気づきました。
難病の原因が解明し、予防・治療が確立することを祈ります。
この記事を書いた人
- 十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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