舌全摘出術後の患者さんの看護
舌癌は、全く未知の世界だった
胃がん、肝臓がん、脳腫瘍…
医療現場にいると、さまざまな癌患者さんに出会います。
けれども、舌癌患者さん、とくに、舌癌に対し舌全摘出術を受けた患者さんと関わった事があるという方は、少ないのではないかと思います。
実際、私も耳鼻咽喉科に勤務するまでは、舌癌患者さんと接した事がなかったのはもちろん、〝舌癌〟すら全く意識していませんでした。
それだけに、自分の想像を絶する状況に置かれている舌癌術後の患者さんがすごく印象的で、その看護に戸惑い、悩みました。
イメージしにくいかもしれませんが、少しでも、このような患者さんの事を伝えれたらいいなと思います。
舌の役割①生物学的機能
一言で言えば、「食べる」ために必要な機能です。
「嚥下」について調べると、舌の働きについて詳しく説明されています。
読んでいるだけでは、なかなか分かりにくいですが、説明を読みながら、舌の動きに意識して自分で嚥下してみると、すごく分かりやすい。
その食塊は、舌運動により口腔から咽頭に送り込まれていきます。
このとき、舌の前の2/3は口蓋の前方部に密着している事を感じることができます。
食物が戻ってこないように、しっかり蓋がされます。
舌が食塊を咽頭に押し込んだと同時に、舌根部が動き、下咽頭部を開いて、食塊が咽頭に通る通路ができます。
以後、食物は食道へと進んでいきます。
舌を切除した患者さんは、ことような事ができません。つまり、咀嚼も、嚥下もできないのです。
では、どうして食事をしているのか?
舌癌術後の患者さんの食事
舌全摘した患者さんの食事は、もちろん流動食です。
私が働いていた病棟では、50mlのシリンジに、短く切った16Frの吸引チューブを接続し、流動食を入れ、口腔内に流し込んでいました
咽頭への送り込みができないため、患者さんは上を向き、チューブを喉の奥の方まで入れ、流動食を流し込んでいきます。
舌がなく「蓋」ができないので、どうしても少しは口腔内に戻ってきます。
戻ってきた流動食をティッシュで拭き取り、次の分をまた、送り込んでいきます。
舌がないので、味は分かりません。
私たちは、美味しそうに盛り付けられた食べ物を目で見て楽しみ、そして、味や、食感を楽しみます。
毎日、色も、見た目も、決して〝美味しそう〟とは思えない流動食を食べ続ける患者さんの胸中を思うと、胸が痛みました。
〝食を楽しむ〟ではなく、〝生きるために食べる〟
「もしも自分が、この患者さんだったら…」と考えた時、患者さんにかける言葉が見つかりませんでした。
舌の役割②言語学的機能
私たちは、舌があるから、はっきりと話す事ができます。
当然って思う人が多いでしょうが、実際に舌を使わずに話してみてください。
言葉にならない事を実感できると思います。
舌全摘された患者さんが、口頭で何かを伝えようとがんばってくれるのですが、やはり聞き取れません。
口腔内に溜まった唾液を飲み込む事ができないため、話している最中に、赤ちゃんのよだれのように、唾液が口腔内からたれてきてしまいます。
それを、恥ずかしそう、というより、申し訳なさそうに拭っておられた患者さんが、印象的でした。
伝わらないもどかしさ、聞き取れないもどかしさ…
聞き取れなくてごめんなさい、という気持ちでいっぱいでした。
看護の難しさ
〝患者さんの立場に立って考える〟と、よく言いますが、患者さんに同化すればするほど、かける言葉が見つからなくなる事があります。
辛いですね、大丈夫ですよ、元気だしてください、なんて言葉が、その患者さんにとっては、すごく軽い言葉のように思えるからです。
自分の存在や、言葉が、少しでも患者さんの元気につながるようなナースになれたらいいな、と思います。
この記事を書いた人
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2歳年上の夫と、子ども2人(8歳女子・2歳男子)の4人家族☆
共働きも、専業主婦も、両方経験あり。
今は、子どもとの時間を大切に過ごしています。
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