認知症高齢者が経口摂取ができなくなったらどうするか~意思決定の援助の実際~
年を重ねるにつれて徐々に経口摂取ができなくなっていきます。そのような時に、人工的な栄養補給をする方法がいくつかあります。
現在の日本では、死にゆく人を身近で接することが少ないことや本人が認知症を患っていると本人の意思がわからないため、どうするか決めるにあたってご家族はかなり悩まれます。
現在、私が勤めている特養では下記のように援助しています。
いつから援助を行うか
急変時救急蘇生をどこまでするか入所前から口から食べられなくなったら積極的な治療をする病院で迎えたいか、それとも施設でできる限りの緩和ケアを行って施設で最期を迎えたいかなど最期はどうしたいかを入所前の調査訪問の時から確認しています。
特養は生活する場であり点滴ができないので、いざとなった時こんなはずじゃなかったという思いをご本人・ご家族のかたにして欲しくないからです。
年に1度は再度確認しています。それは、なぜかと言うと、気持ちが変わる場合があります。また、老いていずれは死を受け止めなければいけないことを知る機会になってほしいという思いと、本人・家族・親族で事前に話し合いの場を持つ機会にして意思を統一して欲しいからです。
もちろん、状態変化があった時は、再度確認をします。
誰がどのように説明するか
入所前調査のための訪問時の説明は、看護師かケアマネが行っています。
その後の定期的な説明は、きちんと施設内研修を受けたリーダーかケアマネ、看護師が、以下のパンフレットを用いて行っています。
当初、誰がどのように説明するか決まっていないため誰が説明するかによってご家族の意思が変わっていました。何せ呼吸器つけたらどうなるか、点滴をしたら、胃ろう造設したらどうなるか経験のない介護士ばかりだったからです。
引用:本人家族の選択のために高齢者ケアと人工栄養を考える 勇美記念財団2010年在宅医療助成事業 発行
このパンフレットは、どれを選択したらいいか今までの人生や生活、価値観を見直せるようになっています。また、それぞれの方法についての益となる場合とならない場合に関して詳しく説明してあります。
自然に委ねるという選択について詳しく書かれてありご家族に好評です。
状態変化が見られた時は、医師に依頼しています。
しかし、施設の提携病院が大学病院のため専門分野や急性期は得意なのですが、総合的に人を見ることができない医師がほとんどです。
家族や本人の意思や気持ちをあまり聴かずに一方的に説明をする医師もいるため施設職員でフォローすることが必要です。
今までの人生や生活も含めて本人・ご家族のお気持ちを聞いて決めていきたいと悔やまれますが、病院しか経験したことがない医師は、自然に委ねた最期なんて経験したことがないので仕方ないかと諦めています。
意思決定するまでのご家族の葛藤
認知症になる前に家族同士でそんな話をしてどうするか意思確認してある家族は少ないものです。
日本は死について話すことはタブーとしているためか、まだ、認知症が軽く本人がしっかりしていてもそんなこと話せないという家族が多いのも現実です。
また、経口摂取できなくなって病院受診をして、医師によって言うことが違うのでさらにご家族は困惑します。
自然に委ねる選択をしたときに、「餓死させる気か」なんていう心ない言葉をいう医師が時々います。
反対に、ご家族がもしかしたら一時食べられないだけで一時的に点滴したら復活するかもしれない、何か病気で食べられないかもしれないと受診しているのに、「高齢だからしょうがないでしょう。検査して何か見つかっても積極的な治療できないんだから検査も意味がない。点滴しても一時だけのことなんだからしてもしょうがない。苦痛を与えるだけです。」と、自分の価値観をご家族に押し付けて何もせず施設に返す医師も中にはいます。
点滴は、特養ではできないため、外来受診をして末梢点滴をしてもらっています。点滴投与は時間がかかるので必ずご家族に付き添ってもらいます。そのように、しばらく通院をして復活した方がまれにいます。点滴をしても状態が変わらなかったり、点滴をしてむくんだり穿刺困難で苦痛な状態を実際に見たりするとご家族は老衰で先があまり長くないなどと徐々に心の準備ができてきます。
胃ろうをご希望される方は、少ないです。胃ろうを選択せずに点滴投与をご希望されたことに関して、医師によっては、「点滴につながれるほうが不自然で、胃ろうから栄養を注入して腸から栄養吸収されることのほうが自然なのに点滴希望とはどういうことだ」と責める医師もいます。
大抵のご家族は、「医師に気持ちを伝えられなかった」と不服そうに帰ってきます。
ですので、施設で事前にどうするかご家族に説明し、どのような心境でどのようにご希望するか文書にまとめた情報提供書を病院に提出するようにし、だいぶ改善しました。
スタッフも一緒に付き添えればいいのですが、介護施設の人手不足は想像以上に深刻でなかなかできません。
意思決定の援助をして気づいたこと
看護師は、老衰で死に近づいてきたとき点滴をしたり胃ろうを造設するとどうなるか病院で嫌というほど見てきたため知っています。
そのため、最初の頃、ついつい人工的な栄養補給をしない自然に委ねることを選択するようにと強調してしまうことがありました。
しかし、意思決定の援助をさせて頂いて、最期までその人しく暮らせるように、本人・ご家族が納得できるような方法を選ぶことが一番だと痛感し反省しました。
親が死ぬなんて考られないという人もいます。そんな気持ちを受け止めて、その人が現実を受けいられるようにじっくり待つことができるようになりました。
価値観は人それぞれ違うのでどれを選択しても間違いはありません。意思決定のプロセスを一歩一歩たどることができるようなお手伝いできれば幸いです。
また、認知症の程度にもよりますが、テレビで芸能人が亡くなったニュースを見て自分の最期について話したがる方もいます。
日本は、死の話をタブー視しがちですが、こんな時こそ本人の思いをじっくり聞いてご家族にお伝えしたいと考えます。
また、同じユニットで自然に委ねた最期をみた方で、「自分もこのように死にたい」とご希望をおっしゃって下さる方もいます。死にゆく過程を忌み隠さず一緒に話すことで、心の準備ができていくのかもしれません。
この記事を書いた人
- 十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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