高齢者の生き甲斐につながる食事の追及
「食事」は、健康や命をまもるために欠かせないものです。
以前の病院や従来の施設では、摂食と言われるように、とにかく食べてもらい栄養をとることに意義を見いだすということが比較的強くありました。
現在、私は、ユニットケアを導入している特養で働いています。
ここでは、1ユニット10人で構成されており、各ユニットには、家庭と同じようなキッチンが設置されて調理しています。
ご家族からは、包丁で切るトントンという音や、みそ汁・ご飯の炊ける匂いがして、家みたいで落ち着くとよく言われます。それが、五感への刺激になり認知症の進行を遅らせる効果があるということで当施設では、ユニットでの調理にこだわっています。
1ユニットに一人栄養士が配置されていますが、栄養士、介護士、看護師関係なく食事作りをしています。
私も食事を作ったりを一緒に食卓を囲んだりして「食事・食べる」ことの意味について追及をして学んだことをまとめてみました。食欲不振の看護に役立てることができましたら幸いです。
なぜユニットで職員が食事を作るのか
特養は、入居者の介護度が高く、年々重度化していく中で、「わざわざスタッフが食事作りをするなんて大変!」「一緒に食事作りができる人なんていないのにユニットで作る意味があるんですか?」とよく言われます。正直、最初の頃、私もそう思いました。
しかし、寝たきりで声を出しお話ができない方をリクライニングに乗せて食事を作っているそばにいてもらうと、今まで伸びなかった手が伸びたり、今まで見たこともないような沢山のよだれが出てきたのです。
新人の若い子が食事を作っていると家ではそんなしゃべらなかったのにお姑のように口をはさんでくる入居者様がいたり、食事の時は、なかなか口を開けてくれないのに、調理中の時の味見の時は口を開けてくれる人もいます。
不慣れな若い職員が私のために一生懸命作ってくれたんだからと感動して食べてくれた人もいました。
人手不足なので、地域のボランティアや派遣の方々に食事作りを手伝ってもらっています。時には、面会に来たご家族の方が手伝ってくれることもあります。そうすることでその地域での郷土料理やその家庭ならでの味を味わうことができ高齢者は昔の記憶をよみがえらせ楽しむことにつながります。
食事の環境
誰と食べるか
皆で食卓を囲んで食べるのが楽しいと私は思っていましたが、食事は、静かに一人でしたいという人もいますので、こちらの価値観を押し付けないように気をつけなければと思いました。
落ちついて食べられるように誰と一緒にするかテーブルに座る位置も食事摂取量に関係したり、若い男性職員が食事介助をすると食事量が増える人もいます。孫が来ると沢山食事を食べるなんてことはよくあることです。
また、作ったものを職員が一緒に食べることにより、お年寄り特有の自分ばかり申し訳ないという遠慮する気持ちを軽減し、おいしさ時にはマズイという味を一緒に共感できます。
人も環境の一部であり食欲に影響するものなんだと感じました。
食事を入れるお茶碗やカップも大切
味が美味しければ、お茶碗やカップなんて関係ないなんて思っていませんか。有名店の美味しいコーヒーを、病院や施設にある皆同じプラスチックのカップに入れたらなんだかあまり飲む気がしません。
高カロリーの栄養補助飲料を、プラスチックのカップに入れると飲まないのですが、本人がいつも使用していたおしゃれなティーカップに入れたら飲むようになりました。他の人も、プラスチックのカップでなくおしゃれなティーカップにすると水分の摂取量が増えました。また、本人の大好きなヤクルトのから容器にヤクルトではないお茶やジュースを入れると飲む方もいます。
同じ料理でも入れる器を変えただけで美味しそうに見えて食欲をそそるものです。
食べたい時に食べたいものを食べられる
年を重ねるにつれて基礎代謝が減り食事量が減ってきます。食欲不振に陥る方もいます。
そばにキッチンがあると、食べたい時に食べられる利点があります。食事時間にこだわらず食欲不振の人は食べたい時、傾眠の方は覚醒した時に食事を提供することができます。
メニューは一応決められていますが、週に2回はフリーメニューでお寿司の出前をとったり、お好み焼き、てんぷらパーティーを開き喜ばれています。今度は何が食べたい、あれを食べようなど一般家庭で聞かれる会話が入居者様とできます。
普段刻み食しか食べられない人が、なぜかお寿司だけは普通に食べられるという不思議な人もいます。
要望があれば、飲み屋やラーメン屋へ外食することもあります。そうすると施設ではわからない、今まで培ってきた大切な人間関係や好きだったことを発見できます。
食習慣を大切に
今まで続けてきた食習慣を大切にすると食事量が低下しない例が多いです。
朝はパンとコーヒーだった人、約90年間、朝は10時に起きるので2食で過ごしてきた人、晩酌をしてきた人、様々な習慣ができるだけ続けられるように努めています。
健康を維持するのによくないのでは、栄養学的には不合理だなと思うのですが、そのような食習慣をして今まで何十年も健康に生きてこられたことに注目し、残りの人生を楽しく暮らせるように考えると今までのその人の食習慣を知り大切にすることは、とても重要なことだと思います。
何も食べず段々と意識が低下してきた人に、今まで大好きだったビールを少し口に含ませたらニッコリと微笑んで目を開けたのがとても印象に残っています。
高齢者に必要な水分量とカロリーとは
高齢者の1日の必要カロリーと必要水分量 教科書や指南書には、食事に含まれる水分以外で1500mlの水分摂取が必要とされています。
必要なカロリーに関しては、性別や体格活動量により個人差がありますが、高齢者が低栄養に陥らないために必要な1日の総カロリーはADLがほぼ自立の場合は、1500kcal、要介護が高く全介助に近い人でも1300Kcalが必要だと一般に言われています。
でも、実際、入居してくる90歳以上の高齢者は、水分を1000ml摂取するのがやっとです。味を変えたり器を変えたりこまめに小分けにしたり工夫をしてもも難しい人ばかりです。
1日の水分摂取量が500~800mlで100歳近くまで何年も元気に過ごしている方達や、毎日、豆乳だけ飲んでおやつをほんの少しつまむだけで3年以上も元気に過ごしている人、主食だけは全量摂取するがおかずはわずかしか食べない100歳の人がいます。
そんな人を見ると人それぞれに合った食事水分摂取量、カロリーがあるのではないかと感じるようになりました。もちろん必要な栄養を摂ることが出来るように努めることも重要ですが、その人に合った食事量を見極めることも大切です。
そのような観察をせず必要なカロリーや量にこだわり勧めると嘔吐を誘発し誤嚥性肺炎になることもあったので注意が必要です。
人は食事から栄養だけを取り入れるのではなく、食べるということは、その人がその人らしくあるための営みでもあり、愛情を感じ取り入れるものではないかと思いました。
やはり、食べたい時に食べて「おいしい」と感じてたべるのがその人の生き甲斐につながるのではないかと思います。
高齢者の歩んできた歴史や人生を知りその人の生き甲斐につながるような食事が提供できるように努めていきたいと思います。
この記事を書いた人
- 十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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