高齢者施設~拘束になる施鍵と安全を守る施錠
大抵の高齢者施設の玄関は安全面から昼夜問わず施錠しています。
私が勤めている施設は、日中、ユニットの玄関、メインの玄関共に施錠しません。
認知症に特化した施設であり徘徊をする方が常にいるので、時には施設外へ出てしまい、警察に捜索願いを出すことすらあります。
しかし、そんなことが何回あっても鍵はかけません。
高齢者施設を閉鎖的にしないためという理由からなのですが、安全面から考えて納得することができませんでした。
しかし、個人を尊重するという視点に立ちケアをしていくうちにだんだんと施錠とはどういう意味を持ち影響するのかわかってきました。
認知症を患っている方の潜在能力に驚愕
職員の人数が少ない時は、各個室にケアに入ると、必然的に見守りができないことがあります。なので、徘徊の人が出ていき行方不明にならないようにユニットの玄関に鍵をかけました。
すると、いつも徘徊しているAさんが、鍵がかかっている玄関の戸を開けようとして、壊れそうなぐらい足で戸を蹴るではありませんか。
徘徊するものの、お嬢様育ちで生け花のお師匠さんをしていた方でいつもはお上品なのです。なのでAさんが、そんなことをするとは想像もつきませんでした。あまりの衝撃のため皆で見守っていると、それは2回で諦め、何事もなかったかのように自分の居室に戻って行きました。
そして、約1時間後、すぐ近くの老人ホームから「Aさんがうちの施設に来ていますので迎えに来てください」という電話がかかってきました。
居室の戸をあけてベランダから、緊急時用のらせん階段を降りて外にでたのです。居室の鍵は、入所時からご家族の言う通り自分で開けることはなかったので考えていませんでした。
らせん階段には、職員しか開けられないような思い鍵カバーがかかっているのに・・・
しかも、あんなに急な階段を降りられる脚力があるとは・・・
この離設によって職員もご家族すら知らないAさんの潜在能力を発見しました。
他のユニットでも、玄関に鍵がかけられて出られないことを知り、椅子でガラス戸を割った、鍵を出すようにと職員を殴ったなどエピソードがあります。
鍵をかけられたときの心理状態
日中に不要に鍵をかけると、閉じ込められたという感じをうけるようです。中には、玄関に鍵がかかっていることに対して「刑務所に入れられているようだ。出所したい。」という方もいました。
徘徊と散歩の違い
入居者の「外に出たい」という欲求があり、職員の都合があい、一緒に外に出て歩いたときは散歩になるのに、職員の都合が合わないというだけで徘徊と決めつけていませんか。
何も意味なく歩く人は、ほとんどいや誰一人としていないのではないでしょうか。
自分の希望や意思で特養に入った人はいません。ある日、気づいたら住み慣れた家でないところで集団生活を強いられている人がほとんどなのです。
そう思うと、家に帰りたい、今までと同じように、ちょっと近所に行って買い物をしたい、散歩をしたい、家を出ないまでも家と同じように家事をしたいというのは、あたりまえのことです。
鍵をかけずに安全を守るには
むやみに行動を止めない
心配だから安全を守るためにとむやみに行動を止めず、時間がある限り、一緒に付き添うか見守らせて頂きます。今度は何を思いつき何をするのだろうというような楽しむようなおおらかな気持ちで見守るといいでしょう。
心配だから後をついてきたというと、「私はボケていない!馬鹿にして!」と憤慨する人もいます。気づかれないようについていくか、先回りして偶然出会ったようにするか、たまたま私も出かけるところなので一緒に行きましょうというような理由で付き添わせていただくのが効果的です。
どうしても時間がない時
どうしても時間が作ることができないときは、正直になぜ今行けないのか、いつになった行くことができるのか説明します。
お茶を出して気を紛らわすという方法をよくしますが、たいていはその場しのぎにしかなりません。
エレベーターはどうしてる?
エレベーターを暗証番号付きにして職員しか使えないようにしている施設もあります。
現在働いている施設は、ケアする側される側との垣根をなるべく作らないためにエレベーターも自由です。
日中は、たとえエレベーターを降りて1Fのメイン玄関から出ようとすると事務員の方が気づいてくれるので安心です。
事務員がいない夜間は、エレベーターボタンに、掛け軸や絵のを飾って何気なく隠すようにしてなるべく拘束感を感じないように工夫をしています。
地域との連携
しかし、他の方の面会者と一緒に出て行ってでていってしまったこともあります。
少しの時間接するだけでは、認知症とわからない人もいるからです。
よって、なるべく地域の方と常日頃交流をして施設への理解を深めてもらうようこころがけ、行方不明時など協力して頂いています。
離設した先にあるもの
開設をして8年になりますが、幸いなことに、離設をして事故にあったケースはありません。
必死に探したり心配した職員の気持ちを知った認知症の方はひどく感動して信頼関係が強まることがあります。
認知症の方は話す言葉を理解できなくても他人の感情には敏感です。そして、自分が大切にされていないかいるかということを特に気にしているのです。
離設したときに職員(自分)大変だから鍵をかけるのか、入居者の安全のために本当に必要な鍵なのか、鍵をかけずできることがないか考えてみませんか。
そうした結果、業務を見直して、お散歩の時間を設けたり、訴えをじっくり聞く時間を取るように心がけて、徘徊が少なくなった方が多くいます。
そして安らげる空間づくりも欠かせません。ハード面だけでなく、ソフト面では、個人を尊重し、ここにいてもいいんだ、ここでも自分らしく生活ができるんだという気持ちを持っていただけるように接することが大切だと思います。
この記事を書いた人
- 十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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十数年、一般病院で勤務。その後、老年看護、認知症看護、ターミナルケアに興味があり老人施設に就職しました。現在、認知症ケアに特化し、看取りを積極的に行っている老人施設で働いています。
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