妊娠それから乳がん
近年、癌は若年化していきています。メディアでも若いタレントの方が癌であることを発表したりしますよね。癌という宣告は、その人のそれからの人生をとても考えさせられるひとことです。そして看護師は、その宣告をそばで本人・家族と一緒に聞き、今後どのようにサポートしていくかを考えなければいけません。私がとても考えさせられた乳がん末期のとの出会いを書きたいと思います。あなたならどうしますか?
妊娠、それから乳がん
彼女は30代、結婚・妊娠と順調に人生を謳歌していたと思います。ただ、乳がんという宣告で彼女から笑顔は消えました。世界から色が消えてしまったと思うくらいの衝撃だったでしょう。話をしていても心ここに有らず。どこか遠くで話をしているようで、何度も彼女の顔を覗き込んだことを覚えています。そんな彼女の生きる力と癌と戦う力に変えたのはおなかの中の赤ちゃんです。
妊娠継続?それとも治療?
治療にはいくつも選択肢はあります。まずは何を優先するか、彼女と話しました。ドラマや小説の様かも知れませんが、彼女の癌は手術では取れない範囲、全身に転移している状態で、胎児をとるか自分をとるかの重要な選択肢がまずあります。母親もご主人も本人の命を第一選択しました。ただ、本人は胎児なのです。その時私も妊娠していました。私ならどう考えるのか、とても悩みました。私は子供の顔も見れない可能性があるのなら・・・主人が一人で育てていくのは大変・・・など考え、治療に専念するのではないかと思いました。医師もこの時点では、治療に専念することを勧めていましたが、本人の気持ちを優先し、妊娠継続しながらの全身治療を行うことにしたのです。
この治療には大きな危険が伴います。薬によるアレルギーや胎児に影響するのではないかという危険、基本的に癌の治療薬には催奇形性の可能性があるものは多かったのです。その説明にも彼女の決意は変わりません。ただ途中で胎児に異常が生じたときには覚悟をしてもらう必要があることも伝えました。
母親になること
女性にとって母親になるということは、子供に何かあったとき何事からも守らなければという心が育ちます。私も出産を経験してから子供たちに何事にも代えがたい愛おしさを感じています。
私は彼女とそう変わらない週数で妊娠していたので、会うたびにお互いの胎児の成長を話していました。彼女には表情があり、治療にも前向きになっていることを感じることができました。彼女の選択に間違いはなかったのだと思います。このあと私も産休に入り、彼女も無事に出産できたことを知り合いから聞きました。ただ、そのあとしばらくして彼女も亡くなったことを聞きました。
看護にできることってなんだろう?
看護とは入院から退院後までがケアのうち、でも介入できることには限界があります。ましてや外来の看護とは一期一会の可能性もあるのでさらに限界があると思います。短い時間の中でどれだけ関われるか、どれだけ信頼してもらえるか、ケアの本質に迫るためには必要になります。私は彼女のことをよく知らないまま、彼女の選択を間違った方向に導いてしまったのか、悩んだことがあります。出産を止めていれば?彼女は治療をして延命できたのではないか。母親のぬくもりを知らない子供にしてしまったのではないか。彼女の死後の家族の状況などを知ることができないので(悲しいことですが、家族が報告に来てくれない限りは・・・)なんとも言えない結果です。
悩んでも結果の出ないことが看護の世界、医療の世界には多くあります。このような経験によって自分が育てられていることもよくわかっています。ただ悲しみも大きいです。関わる時間や家族が多ければ多いほどその悲しみは大きいです。それでも自分の看護観を持って、日々の看護を実践していきたいと思っています。看護ってほかの仕事には絶対ない大切なことができるって私は思います。
この記事を書いた人
- 大学卒業後、付属の大学病院で11年。病棟、外来、自身の専門性を生かした看護外来の経験、まだまだやりたいことはありましたが、結婚・出産を経て現在は二人の子育てをしながら休職中。今後また看護師を始めるまでの束の間の休息を楽しんで、パワーをためています。
大学卒業後、付属の大学病院で11年。病棟、外来、自身の専門性を生かした看護外来の経験、まだまだやりたいことはありましたが、結婚・出産を経て現在は二人の子育てをしながら休職中。今後また看護師を始めるまでの束の間の休息を楽しんで、パワーをためています。
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